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大阪地方裁判所 平成2年(手ワ)323号 判決

原告

柳浩相

右訴訟代理人弁護士

正木孝明

桜井健雄

井上英昭

被告

東伸化成株式会社

右代表者代表取締役

木戸龍夫

右訴訟代理人弁護士

池本美郎

村田喬

主文

一  被告は、原告に対し、次の金員を支払え。

1  金四二五万円及びこれに対する平成元年一〇月五日から支払ずみまで年六分の割合による金員。

2  金二九九万円及びこれに対する同年一一月五日から支払ずみまで年六分の割合による金員。

3  金七八二万五〇〇〇円及びこれに対する同年一二月五日から支払ずみまで年六分の割合による金員。

4  金八五五万五〇〇〇円及びこれに対する平成二年一月一〇日から支払ずみまで年六分の割合による金員。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。

四  この判決は、一、三項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告は、原告に対し、次の金員を支払え。

一  金八五〇万円及びこれに対する平成元年一〇月五日から支払ずみまで年六分の割合による金員。

二  金五九八万円及びこれに対する同年一一月五日から支払ずみまで年六分の割合による金員。

三  金一五六五万円及びこれに対する同年一二月五日から支払ずみまで年六分の割合による金員。

四  金一七一一万円及びこれに対する平成二年一月一〇日から支払ずみまで年六分の割合による金員。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 仮執行の宣言。

二 被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、別紙約束手形目録表示1ないし7のとおりの記載がある約束手形七通(以下「本件1ないし7の手形」又は「本件各手形」という。)を所持している。

2  被告は、本件各手形を振り出した。

3  信用組合大阪興銀(以下「大阪興銀」という。)は、各支払呈示期間内に支払場所で支払のため本件各手形を呈示したが、いずれもその支払がなかった。

4  被告は、その後、大阪興銀に対し、本件1の手形金一〇〇〇万円のうち八二五万円を支払った。

5  原告は、その後、大阪興銀から各第一裏書の被裏書人欄を抹消のうえ本件各手形の交付をうけてその各手形上の権利を取得した。

6  そこで、原告は、振出人である被告に対し、本件1の手形金残額一七五万円及びその余の本件各手形金とこれに対する各満期の日から支払ずみまで手形法所定の年六分の割合による利息の支払を求める。

二  請求原因に対する答弁

請求原因事実のうち、1の事実は不知、その余の事実を認める。

三  抗弁

1  被告は、栄和化工株式会社(以下「栄和化工」という。)代表取締役柳鉉次の実兄で同社の専務取締役としてその経理面の責任者であった原告の依頼に基づき、同社の資金繰りを援助するために同社に対し本件各手形をいわゆる融通手形として振出交付し、同社は、これを取引銀行である大阪興銀で割引いてもらっていた。

原告は、栄和化工の大阪興銀に対する債務の担保のため、自宅である原告所有の土地建物に極度額二億八〇〇〇万円、権利者を大阪興銀とする根抵当権設定登記をした。

2  栄和化工は、平成元年九月五日、第二回目の手形不渡りを出して倒産したが、大阪興銀に本件各手形金合計五五四九万円を割引いてもらっていたので、被告は、そのころ、大阪興銀に対し、本件各手形は融通手形であるからその決済について便宜を計って欲しい旨を要請したところ、被告と大阪興銀との間で、(1) 被告は、大阪興銀に対し毎月七五万円ずつを支払うこととし、その際、満期が到来した手形の金額から七五万円を減じた金額を額面金額とした手形を新たに振り出して重複して差し入れる、(2) 大阪興銀は、被告が右のようにして額面金額を減額した手形を持参する都度、満期の到来した手形を依頼返却してこれを回収する、旨の合意が成立した。被告は、右合意に基づき、平成元年一〇月から平成二年八月まで大阪興銀に対し毎月七五万円ずつ合計八二五万円を支払った。

3  大阪興銀は、奈良地方裁判所に対し前記根抵当権に基づき不動産競売の申立をし(同庁平成元年(ケ)第七九号事件)、原告は、そのまま放置すると自己所有の土地建物が競売される事態となったため、物上保証人として大阪興銀に対し、栄和化工の大阪興銀に対する債務一億二〇〇〇万円を弁済し、これと引換えに大阪興銀から各第一裏書の被裏書人欄に抹消印を押してもらったうえ本件各手形の交付を受けた。

4  原告は、前記のとおり、栄和化工代表者の実兄でありその専務取締役として経理面の責任者であって、被告に対し本件各手形を融通手形として栄和化工に振出交付してもらいたい旨を依頼し、右各手形の満期後に栄和化工の物上保証人としてその債務を履行して本件各手形を取得したものであるから、融通手形の振出交付を受けた栄和化工と実質的に一体とみられるものである。

したがって、被告は、原告に対し、本件各手形が栄和化工に対する融通手形であることを理由としてその支払を拒否することができる。

四  抗弁に対する答弁

1  抗弁1の事実のうち、原告が栄和化工代表取締役柳鉉次の実兄であること、本件各手形が栄和化工の資金繰りを援助する目的で振出交付された融通手形であること、栄和化工が右各手形を大阪興銀で割引いてもらっていたこと、原告が栄和化工の大阪興銀に対する債務を担保するために自宅である原告所有の土地建物に被告主張のとおりの根抵当権設定登記をしたことを認めるが、その余は否認する。

2  抗弁2の事実のうち、栄和化工が平成元年九月五日に第二回目の手形不渡りを出して倒産したこと、同社が大阪興銀で本件各手形金合計五五四九万円を割引いてもらっていたこと、被告が大阪興銀に対し合計八二五万円を支払ったことを認めるが、その余は不知。

3  抗弁3の事実のうち、大阪興銀が奈良地方裁判所に対し前記根抵当権に基づき被告主張の土地建物につき不動産競売を申し立て(同庁平成元年(ケ)第七九号事件)、原告が大阪興銀に対し栄和化工の債務約一億二〇〇〇万円を弁済し、これと引換えに大阪興銀から各第一裏書の被裏書人欄に抹消印を押してもらった本件各手形の交付を受けたことを認めるが、その余は否認する。

原告は、栄和化工の連帯保証人として右の弁済をしたものである。

4  抗弁4の事実のうち、原告が栄和化工代表者の実兄であることを認めるが、その余は否認する。

第三  証拠関係〈省略〉

理由

一請求原因2ないし5の各事実は、当事者間に争いがなく、〈証拠〉を総合すると、請求原因1の事実を認めることができる。

二そこで、抗弁につき判断する。

1  原告が栄和化工代表取締役柳鉉次の実兄であること、本件各手形が栄和化工の資金繰りを援助する目的で振出交付された融通手形であること、栄和化工が右各手形を大阪興銀で割引いてもらっていたこと、原告が栄和化工の大阪興銀に対する債務を担保するために自宅である原告所有の土地建物に被告主張のとおりの根抵当権設定登記をしたこと、栄和化工が平成元年九月五日に第二回目の手形不渡りを出して倒産したこと、同社が大阪興銀で本件各手形金合計五五四九万円を割引いてもらっていたこと、被告が大阪興銀に対し合計八二五万円を支払ったこと、大阪興銀が奈良地方裁判所に対し前記根抵当権に基づき被告主張の土地建物につき不動産競売を申し立て(同庁平成元年(ケ)第七九号事件)、原告が大阪興銀に対し栄和化工の債務約一億二〇〇〇万円を弁済し、これと引換えに大阪興銀から各第一裏書の被裏書人欄に抹消印を押してもらった本件各手形の交付を受けたこと、以上の各事実は当事者間に争いがない。

争いのない事実に〈証拠〉を総合すると、原告は、栄和化工の取締役などの役員でなかったけれども、その代表者の実兄であって総務、経理面を担当していたので、専務と呼ばれていたところ、被告に対し栄和化工に融通手形を振り出して貸与してもらいたい旨を依頼するとともに、栄和化工の大阪興銀に対する信用組合取引、手形債務、小切手債務につき連帯保証し、その連帯保証人として右債務を代位弁済したものと認めることができる。

右争いのない事実及び右認定事実を総合しても、原告が栄和化工と実質的に一体とまでは解することができず、他にこの点に関する被告の主張を認めるに足る証拠がない。

2 前示一の事実及び二1の事実からすると、原告は、本件各手形の被融通者である栄和化工が本件各手形を融通目的に使用して大阪興銀から割引を受けた割引手形買戻債務を栄和化工の連帯保証人として大阪興銀に履行したものと解される。

ところで、融通手形の授受がなされた場合の融通者、被融通者の関係は、融通者においては被融通者に対する原因関係上の債務を負担することなく、自己の信用を被融通者に供与して第三者から金融を受けさせる目的で手形を振り出すものであり、被融通者が右手形で第三者から金融を受けた場合には同手形の決済は融通者、被融通者間では被融通者の計算に属するもので、融通者が自ら決済をしてもそれは実質的には他人の債務を弁済したことになるものであるから、融通者は被融通者に対する保証人としての実質を有するものと解するのが相当である。

したがって、被融通者において融通手形を担保として金融を受けた場合における被担保債務の手形外の保証人と、担保に供された融通手形の振出人との関係は主債務者に対する保証人が複数存在する場合を類推するのが相当である。

本件においては、本件各手形金額と栄和化工が大阪興銀から手形割引を受けた金額がほぼ同額であるから、被告は分別の利益を有しないものと認めるべきものであり、原告は栄和化工に対する連帯保証人であることにより分別の利益ないし負担部分を有しないことが明らかであるから、原告が前示のように栄和化工の割引手形買戻債務を履行したことにより大阪興銀に代位できる範囲は、互いに分別の利益及び負担部分を有しない共同保証人の一名が全額を弁済した場合の他の共同保証人に対する求償権の範囲によるものというべきところ、右の範囲は民法四六五条、四四二条、四四四条の類推適用により、主債務者が無資力の場合は、共同保証人の数に応じて平等の割合において定めるのが相当である。そして、前示のように主債務者である栄和化工が倒産して無資力が推認される本件においては、原告は、栄和化工の本件各手形の買戻債務を履行した額の二分の一の範囲において大阪興銀に法定代位することができるものというべきである。

そうすると、被告は、振出人として原告に対し、本件手形1の手形金残額一七五万円及びその余の本件各手形金の各二分の一についての支払義務を負担するものというべく、被告の抗弁は右の限度において理由がある。

三よって、原告の被告に対する本訴請求は、(1) 本件1の手形金残額一七五万円及び本件2の手形金の合計額の二分の一である四二五万円並びに満期の日である平成元年一〇月五日から支払ずみまで手形法所定の年六分の割合による利息の、(2) 本件3の手形金の二分の一である二九九万円及びこれに対する満期の日である同年一一月五日から支払ずみまで右割合による利息の、(3) 本件4ないし6の手形金合計額の二分の一である七八二万五〇〇〇円及びこれに対する満期の日である同年一二月五日から支払ずみまで右割合による利息の、(4) 本件7の手形金の二分の一である八五五万五〇〇〇円及びこれに対する満期の日である平成二年一月一〇日から支払ずみまで右割合による利息の各支払を求める限度において理由があるから認容し、その余は失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民訴法九二条本文、八九条を、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官辻忠雄)

別紙〈省略〉

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